5月のお花は初夏の風物詩「シャクヤク」。毎年飾りたくなる、その魅力をご紹介します。
シルクのような艶やかな花弁が何枚も重なり合い絢爛豪華な大輪の花姿☆そして、みずみずしく上品でうっとりするような甘い香り。一本でも華やかな空間を演出してくれます。
一年中出回るお花が多い中、シャクヤクは5月~6月頃のみ楽しむことができる貴重な季節のお花です。ヨーロッパでは「5月のバラ」と称され、初夏を象徴する代表的な花として親しまれています。
シャクヤクの原産地はアジア大陸北東部ということもあり、西洋の花の王と呼ばれるバラに対して、東洋の花の王と呼ばれるボタンの同族種になります。高貴な花としてその地位を守り続けてきたボタンとは違い、シャクヤクは多くの人々に愛されてきた庶民的な花とも言えるでしょう。
日本には平安時代以前に中国から伝来。江戸時代には観賞用としても親しまれるようになり、今日まで多数の園芸品種がつくられています。
【基本情報】
『シャクヤク』(和名:芍薬)
・別名:貌佳草(カオヨグサ)、英名:peony(ピオニー)
・ボタン科ボタン属
・原産地/シベリア、中国、モンゴル
・日本の主な生産地/長野県
・花色:ピンク、赤、オレンジ、黄色、白
・花もち:5~7日
●花名の由来
シャクヤクを漢字で書くと「芍薬」。「芍」は、抜きんでて美しいという意味をもちます。そして、シャクヤクの根は、古くから鎮痛剤などに用いられてきた生薬(しょうやく)。花名の由来は、見とれてしまうほど見目麗しい花をつける「薬」ということのようです。
または、たおやかで、やさしげな姿を意味する「綽約(しゃくやく)」から転じた名前だとする説もあります。いずれにせよ、その美しさをたたえられ、花名になったようです。
お馴染みの「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という美人の例えに相応しい花であるとうなずけます。
●シャクヤク(芍薬)とボタン(牡丹)の違い
芍薬の英語での花名は「Chinese peony(チャイニーズピオニー)」。「peony」のみだと芍薬や牡丹の総称となります。
ちなみに牡丹は「tree peony」です。両者の最も大きな違いは、シャクヤクは草(草本性)なのに対しボタンは樹木であることが分かりますね。
他にも、丸みと艶のある葉のシャクヤクに対し、ギザギザで光沢のない葉を持つボタン、シャクヤクのつぼみはやや丸く、ボタンは少しとがっていること、ボタンよりも花の咲く時期がやや遅いのがシャクヤクなど、よく観察することでシャクヤクとボタンを見分けることができます。
●花言葉
恥じらい、はにかみ、謙遜、思いやり
花言葉の「恥じらい」「はにかみ」は、はにかみ屋の妖精がこの花にかくれたところ、花も一緒に赤くなったといわれるイギリスの民話に由来する説と、夕方に花を閉じてしまうことにちなむという説の2つがあります。
【シャクヤクのお手入れ方法】
切り花のシャクヤクは、咲いた状態ではなく殆どがつぼみの状態で私たちのところにやってきます。丸くて固いつぼみから、ふっくらとほころび始め、開花すると一気に満開になり、やがて花びらがぽとりと落ちくずれる…まるで儚い一生をみているかのようです。
「お客様の家でちょうど良く咲いてほしい」。生産・流通・販売に携わる人たちはそのように思い、調整し、つぼみの状態のシャクヤクを運んでいます。手厚く管理されて私たちの手元にくるシャクヤク。それでも中には「つぼみのままで開かなかった…」というお声もしばしば耳にします。
そこで、ひと手間かけて美しく咲かせてるコツをご紹介します。
■生ける前の下処理
①葉を取り除く
シャクヤクが花開くのには多くのエネルギーを必要とします。つぼみにまで栄養がいくように、葉がたくさんついている場合は、上部2~3枚程残し、下葉を手で取り除いてしまいましょう。
②蜜が付いていたら拭き取り、洗い流します
品種にもよりますが、つぼみの状態の時に花からベタベタした蜜のようなものが出ていることがあります。この蜜があまりにも多いと固まって花びらやガクがくっつき、開花を妨げる要因になります。
蜜が多い時は、水で丁寧に洗いながし開花の手助けをしてあげましょう。
③つぼみをほぐす
つぼみを指の腹を使ってやさしく揉みほぐしてあげると、開きやすくなります。。
④ 茎はなるべく斜めに切る
清潔な花ばさみやフラワーナイフで茎を斜めにカットし、吸水面積を広くします。茎の中の白い綿のようなものも削り取ってあげるとさらに効果的です。
⑤花瓶の水は深めに
シャクヤクは水を良く吸うことと、花が大きいため、水が少量だと花の重みで器によって倒れやすくなるのを防ぐためです。
■管理方法
・湿気に注意しましょう
花びらが多く繊細なので、湿気には注意が必要です。水がはねたり蒸れると花びらが茶色く変色して傷んでしまいます。なるべく涼しい所で直射日光や風には当たらない場所を選んで飾りましょう。
・こまめな水替えと切り戻しが大切です
花を長もちさせるためには、できるだけ毎日の「水替え」と、切り口を新しくする「切り戻し」が大切です。そうすることにより水を吸上げやすくなります。
その際に茎にぬめりがあれば洗い流し、花瓶もきれいに洗い、中の水を清潔に保つことをセットで行ってくださいね。プラスワンのひと手間がどんなお花でも長持ちする秘訣なのです。
※届いたばかりや買って間もない花が弱って見えたら、水分が足りず水落している可能性があります。その様な時は、生ける前にひと手間かけて湯上げ(水揚げ方法のひとつ)をおすすめします。
詳しくは、MAGAZINEの「お花を長く楽しむための基本の水揚げ方法」をご覧ください。
【生け方・飾り方】
きゅっと丸く、まるで木琴のバチのような蕾が徐々に膨らみ、何倍もの大きさの花を咲かせる過程を楽しむのが、シャクヤクを生ける醍醐味でもあります。
暮らしの中でも「昨日はつぼみだったのに今日はこんなに開いたね…」なんて会話が弾んだり…艶やかな1輪を飾るだけでも、部屋の中はがらりとおしゃれなムードに変わります。うっとりしてしまうほどの魅力的なお花☆
手軽にできるアレンジをご紹介しましょう。
①シャクヤク一輪だけを生ける
できるだけ、ふんわりと膨らんだつぼみのものを選んでみましょう。
満開のシャクヤクはもちろん素敵ですが、硬い蕾がほころび始めた頃もとても可愛らしい姿を見せてくれます。生ける器はシンプルなもので十分ですが、シノワズリ調の陶器や缶などもお似合いです。形は、花が大きいので、口元が狭い方が安定感がでます。
大きな花を小ぶりの花器にあしらうときは、思い切って丈を詰めて安定させましょう。コンパクトにまとめると、むしろ華やかさを強調できます。
②グリーンをそえて動きをプラス
シャクヤクは丈を短くすると、花のボリュームは強調されますが動きがありません。そこで蔓もの(ここではトケイソウやテッセン)を合わせたり、初夏らしい枝物(リョウブ)を合わせて、爽やかな風が通るような動きを出すとリズム感が出ます。
③散り間際を水中花で愛でる
満開になったら、花びらが散る前に短く切って水中花にしても良いですね。大輪の花を器の縁に横たわるような感じででそっとのせます。他にも小花があれば一緒に浮かべて。
【番外編-花束で楽しむ】
新緑が美しい枝ものとの相性もぴったりです。他の花を合わせるときは、丸いシャクヤクと形が異なる野の花など小花で大きさに変化をつけて、花色は同系色の方が美しくまとまります。
シャクヤクはこの時期にしか咲かない季節の花です。母の日が過ぎると、花屋さんの店頭はシャクヤクのお祭りのように賑やかに彩ります。これから夏が近づくにしたがって出回る量が増え、最盛期になると種類も豊富になるので、ぜひいろいろな種類をたっぷり楽しんでみてください!